やりましたね!!!張本!!!完全復活!!!

しかして、シンプルに強くなった、というわけではない
この試合見ていてかなり面白い点が多いわけで
この試合を考察していく上でキーワードとなるのが、「積極性」と「メンタルゲー」

2点に着目してこの試合の見どころと転換点に関して見ていきます。

①0-4で負ける試合

試合後のインタビューで安堵した表情の張本が漏らしたのがこのセリフ
まぁ誰がどう見てもそう思えるような試合
ワンチャンあるなら何だろうと皆が頭を悩ませる
それほどに林の内容が良すぎた

バック対バックになれば先にバックでぶち抜けるし、ラリーになっても打ち抜かせない
出たボールも強打するだけじゃなくて回転変化を付けたり、遅いボールを混ぜたり張本のブロックを容易に貫通する
エッジも味方する
チャンスボールやバックからの強打もミドルを織り交ぜ、コースを絞らせない
チキることがあるのだろうか、いつもの林ならここらでメンブレするはずなのに
そう思えるようなデュースの場面でもフォア前に出たボールをしっかりかけていく
全く持っていつもの不安げな表情を浮かべる要素がないほどだ

・・・そう、3ゲーム目までは

②林の戦術の単調化と弱体化

上記のような強い林の姿は競った場面から急になくなる。
以降林は繰り返し張本のサーブに対しコントロールがつかなくなり浮かすようになる
コースも単調になり、ミドルを狙うことが出来なくなる。
しかし、展開としてはバックにロングサーブを出し頑張ってフォアで勝負をする展開や、先に甘いボールをもらって広角に叩く展開で開き直ることさえできれば点数は取れた。
戦術を大きく転換した6ゲーム目のロングサーブからのオールフォアなんかは可能性の塊。
だがそれは振り絞った結果にできた、一時的なもの。元の戦術に、一番信用できるバックからの展開に戻れば張本に潰される条件にはまってしまう。
張本にオールフォア戦術を攻略されてしまったのはなぜだろうか。張本がついていった林の欠点とはどこだろうか。
ここからが本題、「積極性」「メンタルゲー」に関わってくる。


③張本の2連続の台上強打の打ちミス

本試合での張本のサーブは終始有効であった。
代表的なのは2ゲーム目4-4からの2本のサーブ。
いずれも林は浮かしたレシーブをし、連続で張本が打ちミスをする。
これは打ちミスした張本が悪いし、もったいない。しかし、そう思えるぐらいに浮いたボールがきており、サーブが効いていたのだ。
なぜ効いていたか?
単に張本の下が切れており、バックでのレシーブでネットミスを誘ったり、フォア側でチキータをされる際も変化に対応できず打ちミスを誘うほど。
それを撒き餌として、3ゲーム目11-12からのサービスエースを誘発した。

張本は浮いたボールをもらった場合、フォアでいけるなら高速フリック、フォア前であれば回り込んでのフリック気味の高速チキータで勝負をかけた。チキータはブロックでノータッチで返されてしまうこともあったが、それを無視しても決定打足りうる一撃。
展開として何度もくるし、点数を取らなければいけない時にしっかり期待値として取るためには必要不可欠な台上攻撃。
ミスをしたとて張本はあきらめなかったし、ここが必要なのをしっかり理解した上で勝負し続けたのだ。
この積極性こそが張本の得点パターンを最後まで担保し得た1点

④張本の回り込み強打

4ゲーム目3-1からの張本の回り込み打ちミスと、ぶち抜いての得点
これは1-1交換できたパターンと無視できる・・・というわけではない
なぜなら、ここもまた林はいいレシーブが出来ていないし、1回打ちミスしたからもう1回ミスを誘う意味で同じことをしてしまった
そして、張本も同じことをした
しかし、打って「入ってしまった」のだ
これは張本としてはいいイメージ
積極的な一手でしっかり得点できた
1点を失って1点を得ることで、「回り込んで攻撃して点数が取れる」経験と自身を得たのだ
もし仮に林が2本目のレシーブをフォアで強打したり、チキータしたりして回り込み強打の展開をさせなかったら、張本の中では「回り込み強打が入らない」ままで展開を取っておくことができた
しかし目先の1点を得るために先に使ってしまったのだ
・・・点数が欲しい時に展開を取っておいている張本とは違って

勿論0-4で終わる試合であるならば別にそれでいい。しかし、ここで積極性を取り戻した張本は立て続けに強打してこないとわかり切ったフォア前を軸に回り込み強打で点数を重ねる

0-3 6-2で張本が強打をし打ちミスして林が得点をしたのにも関わらず、ホッとした表情で声を出さないのがまさに「積極性を欠いた不安ないつもの林」を象徴している
0-3 8-5で張本のサーブを浮かし、回り込んでのチキータ強打。前述のとおり、「撒き餌」が済み、精神的優位性がサーブからの展開で張本にあることが明らかになる

⑤ロングサーブ合戦

5ゲーム目で急に戸上・宇田よろしく、日本式の現代速攻の展開にシフト
ハーフロング系のサービスから強打勝負、緩急もクソもない
バックにロングサーブをかましてぬるく返したら最後終わり

6ゲーム目でも展開は変わらず
とかく積極性が無くなった林は、オールフォア、発破をかけられたのだろう
しかし、そこで張本も気付いてしまった
ああ、「ロングサーブ出して攻めればいいのね」、と
0-4でリードされていたにも関わらず、同じ戦法で1-4に。勿論お互いに感覚がなくなってきたのもあると思う。しかして、あそこでの甘い打ちミスが無ければ勝者は逆だったろう。
ただ心境を読めば、やっと勇気を出して4点取ったのだ。少しほっとして入れにいきたくもなる。
しかし、その後の張本の無慈悲に高速バックハンド。さっきは先にフォアをつぶされていたはずの、林得意なハーフロングからの展開なのに、ほぼほぼ張本がいるところにボールが返り好き勝手に打たれる。
からのサーブミス。そしてフォア前に救いを求めたサーブも、終始続けていた張本の短いボールに対しての積極性から何事もなかったかのように回り込んでチキータ。
5-7で張本の出したフォア前に対しふかしてエッジで得点。
やはり張本のサーブは効いている。
5-8でフォア前を回り込んでチキータする林。ここまでの林は少し持ち直したように思われる。

しかし、ここからの展開は・・・

張本のロングサーブが著効し8-10に
シュシンやマロン、水谷であればワンチャンスで回り込んでフォア強打をしていたに違いない。
ここでもフォアでなくバックを信じた、消極的な林の姿

5-9から10-10に至るまで、林の出すサーブは全て短いサーブ
あれほど得点期待値が高かったバックへのロングサーブは跡形もなく消えた
自分からフォアを打って得点できていたのに、何ならミスはなかったのに
勇気をもって強い手を打つことができなかった

⑥ここまで育てた展開

最終ゲームまでに確立された得点パターンを列挙するならば
お互いに
・バックにロングサーブを出してからの展開
・レシーブで先にチキータ、ないしは出たボールをかける
張本には、短い下をどちらに出してもナックルを混ぜれば効く展開も残っている

使えるカードはその実張本の方が多い

このゲームでの転換点は2-4でのフォア前から出る横に対し張本が空振りした場面
林は打たれる前提の回り込みをし、攻撃的な姿勢を見せてはいるが、その前にしっかり横入れで攻める姿勢をした張本
積極的でリスクを恐れない姿勢は変わらない

しかし林も開き直っている。ゴリゴリにフォアを振り回し、しっかりミドルをついて得点。
積極性ではどちらも良く、フォアの差で林が優位に。

あとはこの姿勢を完遂すれば勝てる

3-7で張本が出したフォア前から出るサーブ
これをツッツキしようとした林がネットミス

・・・ここまで積み重ねてきた積極性の差が如実に出た

そこは張本がミスをしてでも打つ姿勢を見せてきた
だからこそそこには林は出せなかった
しかし、林はそこを全く打っていない
ようやく積極的にチキータをしてメンタルが安定したきたぐらいで、出ているボールをフォアで強打はしていない
張本は見越した上で、打ちミスの期待値も込みで出している(もしかしたら長くなってしまっただけかもしれないが)
それからは林は頑張ってフォアを振り得点を重ねる
しかし、レシーブミスさせられたのは十分に嫌味として残り続ける

5-9 出ているからとチキータをしようとする
しかし、さっきよりも短い。打ちミス
6-9 意識はフォア前に残りながらも、長いサーブが来るはずとの読みで回り込む
姿勢はいい。しかし、既に遅し。対下を打ち込んだのは久しくなく、打ちミス
その証拠に可愛く素振りなんてしちゃってる。もうこうなったらフォアでレシーブなんてできない
なんなら絶対に打ち込まれない。張本には有益すぎるほどの情報の宝庫。


7-9 積極性の残るバックへのロングサーブ 
しかし合わせて受けネットミス。勝負ならテイクバック少なめにぶち抜きであったり、こここそ回り込みで勝負では?
こうして点数が詰められる毎に、首を絞められていく

---ミスしたくない---

---負けちゃうってーーー

そんな表情に変わっていく林

バックが効かないとなれば、フォア前
しかし、そのフォア前はずっと張本には効いていない
ミドル奥も打たれている
この時点ではフォア奥や、もう一度バック奥で勝負もあったが、「打たれる」のが嫌な心境にもなれば出すことなんて自殺行為に思え出せない
やはりフォア前の方がチキータしか来ないから・・・しかしここ一番でバックサイドのチキータがきてしまったし、開き直って回り込もうとしてしまった林

やはり選択肢としては中途半端
チキータを狙うなら打点早くバックでいいし、フォアで狙うならフォア奥をついてストレートを狙ったり、バック奥に出してフォアに来たのを狙った方が自然

強い手が浮かばずに思考もぐちゃぐちゃな林

9-9 畳みかけるように「強打しろよ」と言わんがばかりにバック奥にロングサーブ

10-9 絶対に強く打たれず、チャンスボールがもらえやすく、かつレシーブミスしやすいフォア前に

意外に打てないボールが来たから自然とバックに繋いで次をカウンター狙い
破壊された林は打ちミス




ここまで書けば張本がやったことと言えば、積極性の高い、出たらかける、浮いたら叩くを徹底し、ついていないときは仕方がないと気持ちを切り替え続けた

バックにロングサーブを出して甘ければしっかり打つし、甘くなければ繋ぐ

至極当たり前のことしかしていない

そして相手をしっかりと見て、相手が積極的にこない所を要所で狙い続けた

無論、これらを貫きとおすメンタリティはさすがトップ選手
積極性と一貫性からして、選手として充実してきたのだとまざまざと知らしめた

今回のように勝てれば誰からでも勝てるのでは?と我々は思ってしまうが、技術的には林の方が上回っているところが多分にあった

張本からも台上とフォア強打を有効打も作れるように復調してきており、戦術的に相手の穴を見つけられればまた勝てるような卓球になってきている

おおよそ次回以降の大会ではバック対バックで優位性を取れるかどうかが常に論点になるだろうし、出たらかけるをフォアで徹底できるかどうかも要所では課題になるだろうが、いずれも現代卓球での論点そのもの。ミドルからの展開であったり、サーブのアップダウンで先に優位を取れた方が勝つのもまた当たり前かな。


以上、本試合は積極性とメンタルゲーに終始した試合で技術的なところで見ればそれほど面白くはないが、心境と狙いを推察しながら見る分には非常に面白い試合であった。

久しぶりに東医体でコーチしているような気分になれて、わくわくした。

また面白い試合がみたいな、と小学生並の感想で〆るとする。