いやあ、スゴイ試合でしたね。
両者のメンタルの動きが目まぐるしくて、見ている分には面白かった。けれど、試合している側からしたらちょっと嫌な試合ですよね。



試合序盤は張本ペース。
いつも通り暴力的な攻撃で丹羽を封殺しながらも、そこにカウンターを合わせてつつ丹羽がくらいついていくという流れ。
YoutubeでLIVEで見ていましたが、丹羽やる気なさすぎとコメントが集まるよう、確かに丹羽くんに覇気が無い。

しかけの段階でしょうもないミスをするし、ファンジェンドンが張本に負けた時のような感じ。
先に攻められているのだから、こうしたミスが出るのも納得できるのだけれど、対オフチャロフ戦の時にやたら強くなるような、試合に入れ込んでいるようには見えなかった。

しかし、5ゲーム目8-10でサーブを持った丹羽が強硬策に出て、それが全て刺さる。
「アドリブの丹羽」
の覚醒の予兆をここで見た。

6ゲーム目、7ゲーム目はまさに神がかり。
丹羽の得点すべてが動画映えするようなプレー。
ビッグラリーで勝ったと思えば、鮮やかにミドルを抜き去るカウンター。決め手は横入れ。
張本のメンタルをへし折り徐々に張本から覇気が無くなってくる。
張本の攻めが遅くなれば その分丹羽の攻めが加速する。
主導権は綱引きなのだ、丹羽が押せる余裕があれば、すぐさま流れは丹羽になる。

7ゲーム目5-4で丹羽リードのままチェンジエンド。
丹羽の状態も最高潮で、この1点のリードはあまりに重い。
丹羽の勝利は揺るがない。誰もがそう確信した。事実、試合は丹羽ペースのまま進み10-8。

しかも丹羽がサーブを2本もった状態だ。
後はハーフロングのフォア前と、巻き込みバック奥を散らせば丹羽の攻めは繋がるだろう。

そこで丹羽が取った行動はまさかのもの。

「タイムアウト」

マッチポイントを握っている状況下でタイムアウトを使うならば大差の時、例えば10-3から追いつかれてきた10-5とか、10-5から追いつかれてきた10-7とか。
本試合でもせめて使うのなら10-8から追いつかれた10-9ではないだろうか。

それが2点差離れた状況下でのタイムアウト。

ここで映像が抜かれていたのだが、余裕そうにふるまう丹羽と、項垂れる張本。

確かにリードしているのは丹羽だ。

タイムアウト明けに丹羽が出したのは、順横系のサーブをミドルへ。
回り込んで張本がぶち抜き台上バックドライブ。
10-9
時間があったせいで、丹羽も大分考えたのだろう。
張本に全く張られないはずのサーブを出したはずだ。
確かに張られていないサーブ。だが、台から出てしまえばそれは打てるサーブ。
せめて打てないサーブならば強いだろう。その意味ではストレートに巻き込みサーブを出した方がはるかに聞いたはず。
タイムアウトが裏目った形だ。

その後も丹羽のサーブは出てしまい、張本に殴られ続ける。
結果、タイムアウトから丹羽は1点も取ることが出来なかった。





本試合はタイムアウトの重みがこれでもかと理解できる、非常に教育的な試合だったと言える。

それも、以前水谷戦で不用意なタイムアウトを取って負かされた張本が、丹羽の不用意なタイムアウトで逆転勝利するという何か因縁を感じるようなものだ。

深読みに深読みを重ねた私としては、この試合は負けそうになった丹羽が張本に食らいついていく途中で張本の何かを掴み、「もう勝てる」と確信したように思う。
勝ち負けの利害がそこまで変わらず、このまま勝っても面白みが無いと感じた丹羽はより自分を追い込みつつ、張本を試す為に「あえてタイムアウト」を使った。

つまりは、張本にタイムアウトを教えるためだ。
張本が以前とったタイムアウトの意味を、丹羽自身が使って教えたのだ。
「水谷さんの心境はこんな感じだったんだよ。君はあの試合負けていない。スランプなんて気にするな。」
と、メンタルトレーニングを、日本開催のアジアカップの日本人対決とメディアも注目する舞台で。

「丹羽が張本のメンタルを鍛える為にこの試合を演出した」

こう見ると試合の見え方も大きく変わってくるよう思える。
「日本のエースは誰か」と聞かれれば水谷、「日本のアドリブマスターは誰か」と聞かれれば丹羽、「日本で一番強いのは誰か」と聞かれれば張本だろう。

あくまで「日本で一番強いのは」だ。東京オリンピックで張本は「世界で一番強いのは」で名前を出されなければ、日本悲願の金メダルは得られない。

オリンピックで金メダルを取る為に必要な最後のピースである張本を育てる為の「チーム張本」がナショナルチーム全体で作られている。

・・・妄想垂れ流しすぎですかね。

簡単にまとめれば、
この試合見どころ満載なので、おすすめということです。
テレ東の公式チャンネルでフルで上がると思うので、是非ともフルで見て欲しい。




PS

丹羽のカウンターを見ていて思ったのが、肩甲骨外転を多用しているという点。
基本的に肩甲骨外転は押す技術な為、前に押し、オーバーミス多発の原因となる。
だが丹羽はそれで入る。
理由が簡単で、カウンター時のテイクバックが非常に少ない。
テイクバックで使っているのが肩甲骨内転ではなく、肩関節外転。バックというよりラケットとボールの高さを合わせる動作をし、肩甲骨内転を使わないことで肩甲骨外転で押す力を抑え、ちょうどいい飛距離を作り出している。
また、肩甲骨外転の押す力を制限する為に肩関節外転で肩関節水平屈曲を使える外転位を保持し、スイングを後ろから前でなく、左から右と所謂巻くようなスイングをしている。

ただの手打ちというバカもいるかもしれない丹羽のカウンターだが、意識されている運動はただの手打ちといえないもの。
待ちが難しいが、やっている運動自体は理に適っているように思える。
これは真似したいね。・・・いつ卓球できるかわからないけれど。