結果と総評しか見たことが無いので、見て止めながら考察していく。
やる気を見せなかったアーサル、とのことだが果たしてどうだろうか。
是非動画を見ながら、合わせて読んで頂きたい。

1ゲーム目
全体的に張本が圧倒、と言える内容だが、確かに違和感が残る内容。
攻めれるポイントで攻めず受けに回るアーサル。積極的な回り込みを抑え、張本のスピードに慣れようとしているのだろうか。
凡ミスも目立ち一切声を出していないが、ボールを拾いにいく様子はスムーズで戦う意思がにじみ出ている。
全体的にアーサルのサービスがロングサービス主体でどことなく嫌味を付けにきている印象。
1ゲームを捨ててでも、張本の試合感覚を奪いに来ているのだろうか。
緊張感ある場面でロングサービスにこのゲームほど思いきりいけるのか。この後にハーフロングを出された際、張本はどう対応をするのか。
含みを持たせた配球術で、択は常に張本にあるものの手なりで対応する張本という図式。
このゲームで得た情報量はアーサルの方が圧倒的に多いだろう。

2ゲーム目
3-3あたりでアーサルは初めて自分の卓球の主張をする。
「バックバックで浮き球を貰ったら、張本くんより速いぶち抜きが打てるよ」と。
実況は張本を褒め続けていたが、この段階ではアーサルと五分では?と思わせる内容。
そこから3本張本が連取したところでアーサルのタイムアウト。
このタイムアウトの意味をどう捉えるかは人それぞれだろうが、「3本張本が連取した」といっても全てアーサルのミスから。それも入れば強い選択肢を取ってのミスなため、アーサルとしてはまだやれそう、多少ツキが無いような印象を持っていたかもしれない。
こういう微妙なミスは相手の状態が少し変わるだけで修正できることもあるし、自分の体勢が少し低くなれば、もう少しボールを引き付けることが出来ればなんとかなるケースが多い。
アーサル自身自分の状態に多少の違和感を覚えていただろうし、このままヅルヅルいかれればメンタルも切れそうと踏んだのか、張本の状態を少し変えたいという意図もあったのか、どれが正解かは本人に効かなければわからないが、ただ3点差ついたから流れを変える為にやったタイムアウト、と決めつけるのは短絡的とも思えるもの。

流れの中でも、間違いなく大きな意味を持つし、アーサルの試合感覚としてもびびっとくるものがあったはずだ。

アーサル3-8張本
ここでアーサルは対張本で斬新な戦術を見せる。
序盤から中陣に下がり、バックの引き合いで張本に受けを強制させたのだ。
ここまでろくに守ってなく、ただ攻め続けた張本は虚を突かれたのだろう。カウンターの選択肢が頭の中に出てくること無く、ただ漫然とクロスにブロック。そしてアーサルは鮮やかなストレートでノータッチを取る。

アーサル4-8張本
張本を受けに回らせたアーサルは張本が守勢にいるかどうか確かめるように、露骨に回り込んでクロスにドライブをする。普通に考えれば張本のバックの餌食になる展開だ。
だがそれを張本はストレートにプッシュしようとしてミス。
明らかに張本の受けプレーのバランス感覚が無いと示す1本だ。

これ以降張本は攻め続けて点数を取った。
そう「攻め続けて」

3ゲーム
序盤から張本の攻めっ気は続く。
アーサル0-3張本
張本は強打した際オーバーミスをし、「あぁっ」といらだつ感情を露わにする。
アーサル1-3張本
アーサルが出したサーブはあまりにチキータして下さいといわんがばかりのイージーなロングサービス。無論強打する張本。
ここで私は気付いた、「アーサル式煽りシステム」に。
これは私もよくやる戦術、以前東医体チャンプにぶつけて、0-2の3-7から逆転勝ちした時も多用した。
相手に「自分から打とうとして打っている」印象ではなく、「相手から打たされている」印象を与えることで、どんなイージーボールでも強打する際にプレッシャーを与える効果がある。
といってもこの戦術はブロックありき、仮に相手がひよって繋いできた時に強打できなければ完遂することはできない。
無論アーサルはそれを完遂する技術、度胸がある。
一度ぶち抜かせて点数を取られた後は…ノンリスクに普通に攻めて点数を取る。
アーサル1-4張本
フォア前にショートサーブから、ミドルに強打。アーサルは鮮やかだった。
サーブから2点取るための戦術では無い、1点をもぎ取りながら、相手のメンタルを削る戦術だ。
アーサル2-4張本
ラリーからアーサルが得点。
バックサイドにひたすら寄せ、打たせつつも回り込みを確認した後、よりサイドを強襲。
「あれ?」と張本のつぶやき。
アーサル3-6張本
回り込みが自然と出てくるような張本の両ハンドバランスを壊すが如く、三球目でバックストレート。
狙いがハマるということは、張本の意識を読み取っているという証拠。
アーサル8-8張本
これまで打てるボールを敢えて打たないできたのか、打てるボールを細かく刻み追いついたアーサル。
サーブ権を持ち、再びバックにロングから入ると思いきや、逆のフォア前から展開。
競って攻めっ気が出ていた張本は回り込みチキータを試みミス。
ここで私はアーサルの勝負勘に震えた。麻雀やらせたら間違いなく強い。
アーサル9-8張本
前ポイントのイメージ、これまでの組み立てが完璧にはまった。
アーサルはバックにロングサーブ。そして張本はバックドライブをミス。
「打つしかないボールを打たされてミス」張本に与えた負のイメージは相当に大きい。
ここでの1点は重要な場面でミスをしたという事実だけでなく、後々にも強打するのが怖いといった印象まで与える、2ゲーム以上の価値がある1点。
恐ろしい配球だ。
アーサル10-8張本
そして思い出したかのように打ち始めるアーサル。
あくまでバック攻めを敢行するがバックに寄せられ失点。だがここでも違和感が残る。
「本当はもっと強打できるんじゃないの?」
アーサル10-9張本
この1点は偶然のミスかしれないが、バックに意識がある張本のフォア前にイージーボールでレシーブ。
そして打ちミス。

この1ゲームを通し、アーサルによるゲームの支配は完成した。
そう、それは、
「試合の支配権は常にアーサルにある」
という意識を植え付けたのだ。
張本が何をしようとしても、それはアーサルによって「させられる」ものへと変わる。
張本の勝機は「させられながらも、強手で打開する」ことか、「アーサルにさせる」ことだが、如何せんアーサルは躱すのが滅法上手く、コース取りからいつでもアドが取れると示している。
故に、張本は打開するしかない状況に追い込まれてしまった。


4ゲーム目
アーサル0-0張本
いきなりアーサルがしかける。ぶち抜きチキータ。
「支配権は俺にあるぞ」と言わんがばかりの先制パンチ。
もうこの人はIQ200くらいあるんじゃないか。天才的なゲームメイク。
この瞬間から張本の表情はこわばりはじめる。
アーサル1-1張本
アーサルに受ける気持ちは一切ない。
本来のプレーとも言える、前陣のカウンターが火を噴く。自分の魅せ方を知り尽くした一撃。

以降アーサルはミスをしても、入れば一発がある性質なものが多く、張本も攻めざるを得ない。
アーサルが単純にミスをして与えたチャンスボールも、張本は打ちミスをしてしまう。
これまでの積み重ねからチャンスボールが「故意的」なのか、「偶発的」なのか区別ができなくなってしまっているのだろうか。
レシーブミスも多発し、アーサルの術中にはまっている。
こうなれば競った時信じられるものが無くなってくる。疑念を持たないようにこのゲームを取るには4点差以上のリードをつけ、そこから丁寧に攻めなければいけないが、点差は離れず。

アーサル7-8張本
あまりに微妙な展開からたまらず張本はタイムアウト。
焦るな的なニュアンスの言葉をもらったのだろうか、落ち着いてツッツキレシーブをしたところを、アーサルがオシャレプレーで「焦りなさい」と攻める。
以降好き勝手攻め、ロングサーブからの縛り、フォアに振ってからのカーブ勝負等淡々と仕事をこなしアーサルはこのゲームをもぎ取る。


5ゲーム目
序盤から張本は猛ラッシュをかける。
決して落ち着いたわけではない。ぐちゃぐちゃの思考のまま、まずは攻めるしかないのだと振り切って、一番点数になる早い展開で、一番相手の弱点を狙う卓球を徹底する。
ミドル攻めが見られたのがまさに吹っ切れた証拠じゃないだろうか。
なんとかリズムを崩そうと球質変化を付けるものの、狙うコースの方針が決まった張本には意味が無かった。
序盤の大量リードを貰った張本は攻めっ気はあるものの、無茶うちをする必要が無い。
打てるボールを厳しいところに、と打つ意識が明確となった。
また、4ゲーム目まで、アーサルの攻めどころがわからなかったが、アーサルが攻めにくるタイミングが理解でき、そして攻め始めたボールを単に受けると劣勢になることにも気付いた。
「攻められたらカウンター」
といった本来の張本が姿を現した。

このゲームは張本のミスが減ったと同時に、アーサルも勝ちを意識した攻めっ気が出ていた。
もしかりに1本目でサーブが浮かず、アーサルが三球目まで持ち込み声を出して煽っていたら結果は真逆だったのかもしれない。
また、張本はバックからリズムを作る選手。
最初にフォアに一本流せるかどうかで、そのゲームの調子は大きく変わってくる。
ここまで緻密なゲームメイクを見せたアーサルが、序盤で少し間違っただけで大幅に点差が付く。


この試合を通じて張本の爆発力を抑え込んだアーサルの聡明さが目立った一方、その火種が一つ燃えるや否やここまでの爆発を生む張本のポテンシャルは、まさに筆舌に尽くしがたいものだと実感させられた。