私が所属する卓球部で本物のサーブイップスだと思える症例を3例経験している。

1例目は某県某高校生の時、県予選三冠を果たしインハイに出場した先輩。
武器は多彩なサービスからの三球目で、生命線だった。それ故にものすごいこだわりがあり、伸びるアップと伸びないアップを球種としても見せ方としても深くまで考察していたり、ジャイロサーブなんて言葉が世間に出る前からジャイロサーブを多用していたほど。
それ故に練習時間の多くをサーブに費やし、神経質なところもあってかある一時を境にして、ある程度疲労がたまるとフォアサーブが出せなくなってしまった。
ラケットに当たらず、当たっても変な方向にふっとんでいく。

2例目は某県某高校生の時、シングル県8、ダブルス県4の先輩。
これもまたサービスとフォアが売りで、用具にもかなり神経質な面があった。(私を粘着厨にいざなってくれた素敵な先輩。)
途中からフォアでは自らの意識でやめることができないテイクバックが入ったり、サービスも複雑なものが一切出せなくなってしまった。


先輩二人がイップスになった原因は勝たなきゃいけない責任感と、練習時間があまり取れず生まれた理想と現実のギャップ等が挙げられるが、結局卒業まで治ることはなかった。


それ以降私の部ではサーブイップスという言葉が蔓延したが、イップスになって困る選手がいなくて風化していったものだが、一番強い後輩がここ2年近くイップス状態になってしまった。

バックサーブとフォアの順横系サービスのコントロールができなくなってしまったのだ。

といってもただ入れるだけならば3球に1回位は入るが完全にチャンスボール。
じゃあ低くて短く入れようとするとバグが起こり、10球に1回綺麗に入ればいいもの。

一昨年位に私とダブルスを組んでキャリアハイの成績を残していた時がイップスの状態として最も悲惨で、1ゲーム2点のサービスミスは当たり前だった。(よくそのハンデで勝てたものだと疑問が残るが)

サーブが上手くいかないとフォアもバグが生じる傾向があるためなんとかしなければ、、ということで色々試して、分析してみた。


治療戦略その①
「余分なフォームを削り切る」
私の持論として、「余分な動作があればあるほどそこで動作にロスが生じ、打球するまでの経路の障害がイップスの原因である」と考える。

水谷がダブルスでサーブイップスだ、なんてどこかで見てから長いスパンで水谷のサーブ研究をした際、ラケット直上トスが最近は採用されておりイップスの面影がない。
ラケット直上トス系のサーブと言えば、森薗くんや馬龍のようなサーブが最小の動作でイップスの余地が無いため教えるようにした。

細かく教えた際は一過性によくなった。

が、あまりに細かく丁寧に教えてしまった為、その日のうちに忘れられてしまった。(あるあるです。)


治療戦略その②
「落ち着きましょう」
卓球初めて間もない中学1年生の時よくサーブミスを連発し、フォルトだと注意された際口を酸っぱくして言われたのだが、
「トスする前に一回必ず停止すること」
意外と当たり前なことだが、これが非常に重要。
何気なく流れでトスして流れでインパクトする選手は全ての行程で一定の動きが出来ない傾向がある。
まずはなぜ入らないかを理解する目的でも、トスするまでと、トスを安定させることは有意義である。
その全ての前段階として、「サーブが入らない、とにかく練習しよう」とサーブを出そうとする後輩をなだめて、「まずは一回止まってから」と言い徹底させることで、トスの精度と、初期位置を改善することができた。
これで以前よりもバックサーブの状態が良くなった。


治療戦略その③
「傾聴と論旨思考」
私「何で入らないと思うの?(解釈モデルを尋ねる)」
後輩「当たらなくて手元ばかり見ちゃうんですよね。」
私「俺は見た方がミスしなくていいと思うんだけど。」
後輩「でも見ちゃうとそこに意識が集中してミスが出るんですよ」
私「じゃあやってみて」

確かに意識が集中してミスが出てる様子。
よくよく見ていると、早打ちの傾向が出ているが故のミスが多い。
トス前にしっかりとまっていても、理想のインパクトよりも早いタイミングで早打ちしてしまう。

私「早く打たないで」
後輩「わかりました。」
「早打ちスコーン」
「だめっすねぇ・・・」

私「なんでダメだと思う?」
後輩「やっぱり意識して見ちゃうんですよね。」

主訴としては「意識」
医師国家試験で学んだ「主訴に還れ」「主訴直せば最強」という論理から、「意識」をそらすことが必要だと。
だが意識をそらすとしても、いつも見ながらするような動作ができるような、無駄な筋緊張が起きないような配慮が必要。
じゃあ、と一言、
私「トスする時もっと上見るようにしたら。」
実際、上手い選手のハイトスも肘の屈伸を使わずに外転運動でボールを吸着させたまま上に上げ、そのボールの頂点を目で追ってから動作に入る、という経験的な根拠があってから出た一言だった。

すると、一発目からサーブミス。
だが、、、
後輩「これいけますわ、いけるやつです。」
はぁ、、、と見ていると、面白いようにサーブが切れて低くて短いサーブが出るように。

あれれ、上見ると効くんですかね、、、

それ以後もサーブは別人のように上手くいく。
だが時折ダメな時もあるのだが、そういう時は素早くサーブを出そうとして、しっかり止まらない時、すなわち早くトスをして、速くボールに当てたいという意識が強い時だった。

考察するなら、意識が強い時に出るイップスは、意識をそらしてしまえば消えることがある。


一応3つのアプローチから、その日はよくなって、忘れて悪くなるを繰り返しているが、トスする時もっと上見るのは結構当たりらしい。

といってもセルからプラになってボールの落下速度が若干違うことから、ボールを見なければロングが出せない選手も聞いたことがある為に一概にオススメすることはできない。

だが、色々吹っ切るという意味でも上を見るのは重要かもしれない。


だってほら、山の中で綺麗な星空見ると、どうでもいい気持ちになるでしょう?
イップスはメンタルの問題だし、それくらいおおらかにトスをするのは効くのかもしれませんよ。

また、サーブ前にきちんと停止するのは有効でしょう。
深呼吸するのもいいかもしれません。
止まることはリラックス効果間違いなしです。