心理と感情は常にイコールじゃない、時に全く不合理に見える結論を出してしまうのはそのせいだ。 


突然何を言い出すのかと言えば、まあとある作品からの引用です。
今回のテーマは自己管理ができていないと上手くいかないよ、という話。

よく試合をして誰もが感じたことがある「練習と違う」「思ったのと違う」という感じ。
「練習と試合の違い」、言い換えれば「理想と現実との乖離」試合中こうした違いに対応する為に試行錯誤するものだが、競った場面で適切な解答を導けなかったらまず負ける。

かくいう私も想定局面になれば強いが、想定局面の前提として、自分の体力が有り余ってて湿気が無くて頭もスッキリしてて…と自分が元気であることがある為に、練習不足だとか連日不眠だったとかで体力が無い日に試合をしてしまったら最後、「なんか違う」と自分の卓球に懐疑的になる。
そうして試合の後に冷静になり、「何も間違っていない。またいつも通りのやつだった」と日頃の摂生を怠ったし、不摂生せずに今を生きるのは不可能だからしょうがないとすぐさま開き直る。

「現時点でやるべきことをやってダメならばしょうがない。やれない状態になったことを悔いたところで状況は変わらない。」

だが、ここまでさっぱり物事を考える、というかどうでもよく思える人がほとんどではないだろう。

むしろ試合中も相当に思い悩み、試合後も勝っても負けてもわからないことだらけで考え込んでしまうのが真面目に卓球をしている人の大半じゃないかと思う。

少なからずそうして自問自答を繰り返す中で必ず障壁となってくるのは言わずもがな自分自身の強さ。
技術的な側面であったり戦術的な側面であったり色々あるだろうが、一番はメンタル。



昨夏の大会で、とある後輩にサーブからのハメ展開を仕込んだと以前書いたが、実は私が知らない中でその選手の情報を得ようと他大学が動画をそれは取りまくっていたらしい。
個人戦でどうやら五台のカメラが回っていたとか。。他の後輩の予想では全くのニューカマーに恐れをなした関東勢が撮ったのではないか、と。

確かにサーブの威力は大会随一、ループドライブの安定感は個人準優勝者と同じくらい、一発の威力も大会では上4本には入りそうともなれば情報収集して対策したいとも思うだろう。

だが正直なところ、動画見てサーブ研究して取れるようになったところで無意味だと思うぞと動画撮っていた人たちに教えてあげたい。

何せ医学部レベルの技術量なんてたがが知れてるし、それを既にメタった上でのサーブからの展開、それも想定局面から外れない限りは常に五分以上の展開になるようにシステム組んでいるわけだから。
こちらと同系統のリスクを負う卓球をできないのに、ただ繋ぐだけで試合に勝てるなんてまずありえない。勝負を知らな過ぎるし、トップ選手の試合の論点をわかってなさすぎるぞと。
同等のリスクを背負って勝負してくる相手には負ける可能性は大いにあるが。

なんなら私も明らかに知らない相手に知られているような卓球をされたことがあるが、そこでリスクを背負って相手に無理筋だと思わせるまで粘ってしまえば苦手な展開でも別に問題にはならなかったし。


要は、「相手に不利展開を押し付けた際、それをどこまで信用できるのか」を試された時に、信じきれる者は勝つチャンスがあるだろうし、信じきれない者はあっけなく崩れていくということ。

私が後輩に仕込んだのは、「お前らはこれしかない」とある種洗脳のような形の戦術。
格上以外すべてに勝てるだろうというシステムと、そのシステムで格上相手に善戦した先人を見ているという確証といっていい経験。

我々が「システム」と呼んだ戦術を最後まで信じ切ったからこそ、信念の無い卓球をした相手側が相当に優勢を保っていてもどこかしらでほころびを見せ徐々に瓦解していくまでに追い込んだ。

以前説明したサーブからのごり押し展開は、自らのメンタルが削れる一方で相手側のメンタルも削られる。
だが、自分のメンタルが削られることすら想定した上でその展開を信用しているならば、別に何があったところで開き直ることができる。想定通りであるのだから。


こうした信じるものがある、芯がある卓球こそが相手にとって脅威となる。


事実、中国選手の勝負強さは太い芯がある。だからこそ小手先で勝負しようとすれば、ごくごくオーソドックスに強い卓球で逃げ切られてしまう。


さて、ここで冒頭に戻りたい。


心理と感情は常にイコールじゃない、時に全く不合理に見える結論を出してしまうのはそのせいだ。


私が作ったシステムはまさにこれを突いている。
サーブからのハメは自分から相手を追い込んでいるという意味合いだけではない。
相手に、相手自身を追い込ませることが本当の狙い


相手が「長くて切れてるサーブが来る。それに対しては相手のバックに送ってしまえばまずはつなげる」と思っていても、その長くて切れるサーブが毎回微妙に変化し、少しでも「なんか嫌だ」と思わせたり、わざと甘く出し打てるような催促をされたら最後、相手の「○○しておけば大丈夫」といった心理とは矛盾した結果を生ませる。

入れればいいと分かっているのに、打ちに行ってミスをしてしまう。
別に入れればいいのに、違和感が邪魔をしてどうしてもこわばってしまう。


そうしてミスをしたら最後、こちらはシステムに則り最大限のハメ展開を押し付ける。


こうなるともう試合の焦点はハメ展開に対して対応ができるのか否か、それも「自制」できるかどうかが問われてくる。

こうしたストレスフルな展開をあの会場でどれだけの人数が乗り越えたことがあるのだろうか。


正直試合態度を見ていればわかる、女子であればいて10人。毎回乗り越えらえるのは5人もいない。

そうしてベンチから飛ばされるアドバイスが相手の心理状況を読み切った配球だったら、相手の自制能力vsベンチの読心能力の構図となるわけで、そこに選手が少し捻った回答を加えてくれれば、メンタルが弱い相手ならば勝手に落ちてくれる。


別にそこまで意識して相手が嫌がる配球を選手に飛ばしていたわけではないが、今思えば相手のメンタル状況を読みつつあれやれこれやれとか指示していたなあと。



今回伝えたいことのまとめとしては、
相手に研究された不利局面の押し付けに対しては、真っ向から勝負しに行き、先にリスクを背負って相手にプレッシャーを与えることが重要である。

研究局面を持ってくる選手に限って、それを信用できなくなった時にその人の本当の部分が出てくるから、それを丁寧に考察してあげることでより相手を貶めるチャンスが巡ってくる。

相手の心の拠り所は何か、相手の考えていることは何か、相手の気持ちは何なのか、相手にとっての最悪は何なのか、相手にとっての最高は何なのか。

ここまで頭が回れば、心理戦を仕掛けて楽しめる卓球ができる(のかもしれない。)



とまあ色々語ってみたが、私はこれら全てをするならベンチにいないとできない。
疲れて頭が回らなくなってしまうとまず無理。
実際自分で全部しようとすると難しい。
あくまでオススメしないが、断片的に相手のメンタルブレイクを狙える私が好む手順をひとつ。
試合で要所では一番リスキーで一番オシャレに点数が取れる択をまず探す。
そこで点数が取れれば相手の置きに行く姿勢が見れるだろうし、その辺りから低リスクのコスパ展開を続けても十分に元が取れるから。
・・・・これで自爆することもあるのだけれど。

危なくなったら丁寧に。


PS.
昨秋国家試験の勉強から逃げながら書きだめた記事を公開しました。
今春の大会で、この戦術を教えた後輩がどうなったか…本人に聞いていませんが結果だけを見るに微妙だったようです。
自分の卓球を信じ切ることができた先に、ようやく相手と心理戦ができるようになります。
選手が自分を信じきれなくなったらベンチがしっかり信じれるように支えてあげる、ベンチコーチが心理戦のアドバイスをする
こうした役割分担が出来るチームは、団体戦は強いでしょうね。