今大会試合には出ず、監督ポジをメインにベンチにおよそ30~40試合は入っただろうか。

少なからずみるべきポイントがあまりに多すぎて、楽しくて楽しくて仕方がなかった。

あまりベンチに入ったことが無く、アドバイスの仕方がわからない人向けに、私なりに今大会に向けて準備してきた視点と考え方を説明していく。大体がこれまでのブログ内容をベースとした打法や傾向に基づくもの。

①相手ベンチ
いきなり何言ってんだ、と思われるかもしれないが私が思うに相手選手を見るのと同じくらい価値がある情報が得られる。
例えばお相手はまずまず打てる選手に、医学部卓球界では有名な名将・おじいちゃん先生。私も選手として某大学と対峙した際、嫌なタイミングでタイムアウトが取られた記憶がある。
こちら側がアップ系サーブからのブロック展開で点数を重ねていた時のこと。相手側が回転軸が分からず上手く合わせることができずにいた際、私はベンチを注目していた。
名将「あのサーブはこうとるんだよ。」と素振りをして周りの学生たちに教えていた。
その振りはフォアで体の外から合わせる打ち方、コースは絶対にストレートにしか来ないし、ミドルに来たらそもそも詰む。
「アップだと分かっている」ことは確信できたし、このまま同じサーブを出し続けたらなら、相手が次にベンチに戻ったら返されうることまでは読み切れた。
即時「切れた下バック奥」とアドバイスをし、レシーブミスを誘い、そのゲームを取って帰ってきた。

ゲーム間アドバイスで「アップロングを出すならバック奥。フォア側に下のロングは非常に有効。入るとしたらクロスのみ。アップを出すなら両ハンド待ちで、バックをケアしておくこと。」と指示を出す。
するとまあ面白いことにさっき以上にサーブが効く。
大方「フォアに長いサーブが来たら、こう返す」と言われたのだろう。心理的には下とは思っていても、上に見え、言われたことを素直にこなしたくなるのが真面目な女子の深層心理。
そして、フォアの話しかしていないことを読んだ上での、足らないアドバイスの穴を突くアップロングバック奥。
こちらが強いサーブを持っていたから有利であるのは間違いないが、ベンチワークとしては私が上をいっていた。



このようにアドバイザーを注視することは重要であり、アドバイザーの一挙手一投足は注目すべきものである。
アドバイスする際には必ずアドバイザーの卓球観が出る。基本的には学生間でアドバイスをするわけで、医学部の中では女子が女子のアドバイスをするケースでは私の戦術を打開することは不可能だった。似通った卓球観同士では上のカテゴリーの卓球に太刀打ちすることは困難。ただ、相手ベンチが男子選手であり、割と実力があり、他にも手を知っているようであると強引な手筋で打開しようとしてきた。
だが、その相手ベンチのことを十分に知っていてどういう卓球をするかさえ知っていれば、アドバイスの質、見ているのが何手先かまでは平気で読める。予めどういったアドバイスをするかまで読めていれば、次はこうしてくるはず、と事前にアドバイスすることができる。
初めは相手が変えてきた戦術に対応できなくても、予想通りの展開から対応手を出し始めることができた時、相手ベンチが「浮かない表情」なり「手詰まり感」を見せてくれたりする。そうなれば、もう勝ちを確信する。


②フォア打ち
相手の基礎設定が如実に出る。スタンスはどうか、打球するポイントは前か横か、体から遠いのか近いのか。
そうしたその人の卓球の本質、曝け出したくないはずの部分が全て見えてくる。
基礎設定が見えてしまえばもう簡単。おっつけ系ならループドライブがえらく効くし、体から近くで打球するタイプならツッツキを左右に振っておけば打ちミス期待値が取れる、等などその選手の苦手技術を見つけることができる。

フォアの左足前設定の場合の順横バックサイド、バック右足前設定の場合の順横バック奥なんかも面白く効くサーブになっていくだろう。
ベンチに入るならばまずフォア打ちは見逃せない。その選手を丸裸にできる一番最初のチャンスであるのだから。

③声の出し方
点数を取った際、ガッツポーズをするならどういうタイプかを見るのはその選手の精神状況を見るうえで非常に重要となる。
基本的に今大会を通じてみて思ったのは、相手ベンチにガッツポーズをする選手ほど追いつめられたら弱いということ。
正直相手ベンチにガッツポーズするとかもうマナー違反どころか最悪だと思うし、私も後輩に「声を出してガッツポーズしろ、ただ相手ベンチには絶対するな」とよく言うのだが…

基本的に試合中の心理を読めば、相手ベンチにガッツポーズをするという行為そのものが自分と、自分のベンチが高まるチャンスを捨てていると見れる。
それもそのはず、ベンチは自分の選手に向けて声を出す。それに対してベンチの方を選手が見てくれないと、ベンチのモチベーションも少なからず下がる。
つまりは相手ベンチへのガッツポーズは倫理観の低さを物語っているだけではなく、ベンチ、仲間への感謝の気持ちの無さまで物語る。

そんな選手が追いつめられた時どうなるか、相手ベンチにガッツポーズをして貶めてやろうという余裕が無くなる。そうなれば次は自分でふさぎ込むような声の出し方をする。自分に言い聞かせるように。
そんな時ベンチを見ればベンチが温かく迎えてくれるはずだが、そのベンチも試合中のやり取りが上手く取れず冷え込んでいる。そう、相手ベンチへのガッツポーズはすなわち味方ベンチを貶めることと同義である。そうなればもう立て直しが効かない。よほど熱心な人間がベンチにいないと、再び戦える状況を作ることができないのだ。

声だしにしても大局観が無い人間であるかどうかはすぐにわかる。
試合での声だしは点数になってもならなくとも、試合全体を左右しうるもの。
卓球の試合をただの「スポーツとしての点の取り合い」としか理解していないレベルでは声だしの質も低い。「心理戦」であり「声だしすらも戦術」となりうると理解している人間であれば声だしにメリハリなり、味方ベンチを煽る為に使ってくるもの。

最強中国、リオの水谷の声だしや、張本のチョレイ、全て「心と心の駆け引き」をする為のもの。

アドバイザーが声だしを見ておけば、心理戦で制することの一助となれるかもしれない。

④素振り
もうこれは、誰もがやっているんじゃないだろうか。
ミスした際に素振りをする癖がある選手の場合、その素振りを見ればバカにならない情報量が得られる。

例えば相手がツッツキをドライブミスした時。
その素振りが明らかにスピードドライブを意図したものなのか、ループドライブを意図したものなのかで次に送るツッツキでミスを誘いやすい。
相手が打ちミスをし、続いてスピードドライブの素振りをしたならば、次ツッツキが来たら再びスピードドライブを打ってくる可能性が高い。それならば低くてハーフロングのツッツキを送ってくれればホームランしてくれる可能性は十分にある。
同じく相手が打ちミスをし、ループドライブの素振りをしたならば、次もまたループ。
高くて深いツッツキを送ればホームランかも。


相手がアップ系サーブを繋いでオーバーミスした際、素振りで上から振るようなスイングをした。
次は弾道の似た下系ロングを出せばネットミスしてくれる可能性が高い。


こんな感じで相手に素振りグセがある場合、その素振りでは返せないボールを送ることができればミスを誘いやすくなる。
私のベンチ側に選手がいる時は、なるたけ小声で選手にそうした指示をし、ミスを相手にさせたりもした。

選手に見る余裕が無くとも、ベンチに見る余裕があるなら、相手の心理を読み取ってミスをさせることは可能である。




まだほかにも色々あるが、ベンチから見えるのは技術的な要素だけでなく、心理的な要素も大きい。
少なからず私がベンチにいた場合、ひたすらに心理戦をしかけて勝つ、勝負師卓球を選手にさせる。
ただこうした強気な卓球は何よりもまず、自分の選手を見ることができないと始まらない。
私が得た情報を元に選手に指示をし、点数が取れたのは一重に私の卓球観と選手の卓球観を共有し、やりたい卓球、やれる技術、メンタル状況等全てを知っているからこそ。
プライベートでも一緒にご飯を食べたり、どんな趣味があるか、どういう性格かまで深く知っているから。
こういう意味では一番ベンチから見なきゃいけないのは⑤自分の選手であるのは忘れてはならない。

卓球は非常に深い競技であり、レベルが高くなればなるほどもはや高度な心理戦・技術戦が行われ一目みてもわからない。
ただ世界レベルの試合であっても解説付きで連続で見ていれば読めるし、次の手まで見えてくる。


こうして卓球の見る力を養えば「ベンチ力」が養われ、実際に自分が試合をする時でも生きてくることだろう。